インプラント治療は歯槽骨に孔(あな)を作りそこに人工歯根(インプラント)を植立して上部構造(被せ物)を装着して歯が抜けて失った咀嚼機能を回復する治療方法です。
歯が抜けた時の治療法にはブリッジ、入れ歯があります。ブリッジの場合は歯を削ります。入れ歯の場合もまれに歯を削りますが、インプラント治療との最大の違いは骨に孔を開ける手術が必要なことです。
骨に孔を開ける方法とは
歯に孔を開けるにはドリルを用いることが一般的です。木材や鉄板に孔を開けるのと同じ方法です。木材も鉄板も削る際に注意するのは摩擦熱と変形であることはご存知でしょうか。切れないドリルで材木に孔をあけると摩擦熱で孔がテカテカします。鉄板であれば変形します。最近は女性の間でもDIYが流行りですのでこの話をすると納得していただけます。熱で変形させないために木材であれば切味の良いドリルを使ってゆっくりと削ると比較的熱の発生が防止できます。鉄板であれば水をかけながら切味の良いドリルで削ることで発熱を抑えることができます。
骨の場合はどうするの
骨の場合も切味の良いドリルを使って水をかけながら削ります。ただし、これが案外難しいのです。
歯科では滅菌と言って135度程度の熱でドリルに付着した細菌を死滅させます。滅菌をしないドリルで骨を削ればドリルに付着した菌に感染して骨がダメージを受けるからです。つまり、新品のドリルでありながら滅菌という工程で、すでにドリルは劣化します。
ドリルで骨を削ると発生する熱は水で冷やすのですが骨を削っているドリルの先端に水が届かなければ冷却できません。
つまり、骨をドリルで削るのは物理的にリスクが存在しているのです。
骨を削らない大口式
骨を削ることのリスクに気づくと骨を削って血管や神経を断絶すること以上に、怖さを感じるようになります。骨はわずか42度程度の熱で組織が死んでしまいます。普段は皮膚や肉で守られていますからお風呂に入っても骨はダメージを受けませんが、42度と言えば江戸っ子が入るお風呂の温度です。
そこで、骨に孔を開ける際に熱が発生しない方法として大口式を考案しました。骨を削らなければ摩擦熱も発生しないので骨がダメージを受けることもほとんどありません。ただし、骨を削らずに孔を開ける方法には専用器具が必要になりましたので、その器具も一緒に開発することになりました。いまではその器具の発展形を使用して骨へのダメージを最小限に抑えて、骨の移植が必要な細い骨にもインプラントを植立することができるようになりました。
大学での実験結果
大口式インプラント法について関東の歯科大学で実験を行っています。最近の学会で拡げた孔がどうなるかについて発表されたのですが、拡げた孔はインプラントを植立してわずかな時間で収縮することが証明されました。これは、インプラントが骨と結合するためには重要なことです。骨とインプラントの隙間が大きいとインプラントは揺れてわずかでも動いていまいます。骨と結合するためには安定期が必要でそのためにはインプラントを植立した初期の段階での初期固定が重要といわれています。大口式で作られた孔は収縮することから初期固定がさらに強固に得られるということになります。
さきほどの熱が発生しないことに加えて、初期固定が得られることもインプラント治療を成功されるには大切なことです。
これからも大学での実験を続けていただき、あらたな発見や証明されることがあればご紹介させていただきます。