前回のブログでは、歯が抜けたからと言ってすぐにインプラントを入れることができない理由についてお話いたしました。
今回は歯を抜いた直後にインプラントを埋入する方法についてご紹介いたします。
矛盾しているようですが条件がそろえば歯が抜けてすぐにインプラントを入れる治療法があります。
歯を抜いた直後にインプラントを植える方法とは
抜歯後即時埋入インプラント治療と言います。抜歯した直後に即時(=抜歯後即時)にインプラントを植えるという治療法です。
抜歯に至る原因のほとんどは歯周病で歯周病原菌による感染症であることは前回のブログでご紹介いたしました。
抜歯後即時埋入ができる諸条件とは、
・感染の度合いがさほど大きくなく感染部位をきれいに取り除けること
・唇側、頬側の歯槽骨がある程度残っていること
です。このような条件がそろった場合には抜歯後即時埋入インプラント治療を行なうことができます。
ただし、インプラントに関する専門知識と高度なテクニックを必要とします。
歯を抜いてできた穴にインプラントを入れるだけだから簡単じゃないのと思われる方もみえるかもしれませんがそんなに単純ではありません。
左は歯を抜いた(抜歯)断面図です。右はインプラントを植立した直後の断面図です。
イラストはインプラントジャーナル誌に掲載した論文用にゼニス出版森山編集長に制作していただきました。
歯根の断面とインプラントの断面の違い
インプラントの直径は歯の大きさによって使分けます。
上顎の中切歯(前歯の真ん中にある左右の歯)の場合は歯のサイズが大きいので直径4㎜程度です。下顎の前歯の場合には直径3.0~3.3㎜を植立します。4㎜も3.3㎜も抜けた歯根の大きさよりも小さいサイズです。インプラントは真ん丸(真円)ですが歯根の断面は楕円形です。したがって、歯が抜けた穴にインプラントを植立するとギャップ(隙間)が生じます。このギャップはやがて骨になりインプラントをしっかりとサポートします。
この時に注意しなければならないことは、ギャップが骨になるまでの間、絶対にインプラントが動いてはいけないことです。動けば骨とインプラントは結合しません。インプラントを植立した瞬間から骨に固定されていることが成功への第一歩なのです。専門用語で初期固定と言います。
歯の大きさとインプラントの大きさの違いがギャップ(隙間)になります。
初期固定を得るために
一般的には歯が抜けた穴の中にインプラントを植えるためにドリルで穴以外の骨を削って穴を作ります。
穴、穴、穴と言ってる時点で難しそうですよね。穴とはつまり骨が無い部分ですから、骨が無いところにインプラントを植立するのはやはり難しいのです。
そこで、私は大口式を使って抜歯後即時埋入を行ないます。骨がないところに骨を作るのが大口式インプラント法です。抜歯後即時埋入の時にはこのように骨を作ることができます。
大口式抜歯後即時埋入法
使用する器具はオーギュメーターです。オーギュメーターは大口式インプラント法のコアとなる専用器具で厚労省から医療承認を受けた医療器具です。皆さんにわかりやすいようにイラストで説明いたします。
子のイラストもゼニス出版の森山編集長に制作していただきました。
歯を抜いた穴にリーマー(緑)でマーキングします。リーマーとは根管治療に使用する器具です。骨の質を確認したりインプラントを植立する方向の確認のために使用します。
その次にオーギュメーターでインプラントを直立する孔を形成します。オーギュメーターのサイズを太くするにつれてインプラントの方向を修正しながら自分の骨を移動させて穴を埋めます。骨を削るのではなく移動させるのが大口式抜歯後即時埋入法です。
大口式抜歯後即時埋入法で形成したインプラント窩にインプラントを植立して完了です。
インプラントが自分の骨に囲まれるため初期固定が獲得できてギャップも小さくなることでギャップの部分も確実に骨に変わります。
植立後、一定期間を経て被せ物を装着して治療が完了します。
まとめ
骨がない、骨が細いためインプラント治療を受けたくても受けられない方もみえます。仕方ないから入れ歯にしようとなっても、骨がない、骨が細い方は歯ぐきも細くなり、入れ歯が安定しません。不安定な入れ歯は食事の度に物がはさまり痛くて使っていられないからと外して食事をしているという話も聞きます。本来なこのような方にこそ、インプラントは効果的な治療となるはずです。
全ての症例にインプラントが出来るわけではありませんが、歯科医師の技術と工夫でインプラントが可能になることもあります。これからも新しい技術の開発と研鑽を続けていきたいと思います。