日本で「インプラント」というと歯科を思い浮かべますが、歯科治療では正しくは、デンタルインプラント、人工歯根と呼びます。
心臓ペースメーカーや人工股関節、骨折の固定に使う固定用プレートやボルトなどもインプラントです。生体内に取込んで失った機能を回復させる材料や治療の総称としてインプラントという言葉が使われています。
歯科治療でのインプラントの歴史は古く、「現代インプラントの父」とも呼ばれるブローネマルク博士が1952年に骨とチタン金属が強固に結合する、後にオッセオインテグレーションと名付けられた現象を発見したところから始まります。1965年から臨床研究が行われ1980年頃に日本に伝えられ現在に至ります。
この現象は補綴治療の概念を大きく変えました。
オッセオインテグレーションとは
前述いたしましたがチタン金属と骨が光学顕微鏡レベルで結合している現象です。セメントや接着剤で接合されているのではなく、チタン金属と元々の骨との間(隙間)に新たな骨(新生骨)が形成されてチタン金属の表面と元々の骨が結合しています。
1980年頃に伝わったインプラントの表面はツルツルの鏡面加工が施されていましたが、新生骨がより強固に結合するように様々な工夫がされたインプラント体へと進化しました。
左のインプラント体はハイドロキシアパタイトがコーティングされたHAインプラントです。白っぽい部分がハイドロキシアパタイトです。
右は表面をエッチング処理によって粗造にした製品です。グレー部分がエッチング加工面です。ややキラッとひかる部分が鏡面加工部です。このタイプのインプラントは歯肉が接触する部分に鏡面加工が施されています。
どのようなタイプを使用するかは歯科医師が熟考して決めますが、それぞれのタイプには特徴があり、当院は患者さんの体質によって使分けています。
ネジのような形をしている理由とは
インプラントはネジのような形をしているので骨にネジ込めば固定されていると思われがちですがそれは違います。ネジは骨とインプラントがオッセオインテグレーションするまでの間の仮固定のためです。専門用語で初期固定と言います。
インプラントは埋め込まれてから2~3週間目まで位までに一旦ですが骨の間に空隙がうまれます。その空隙に新生骨が出現してインプラントと結合します。その間、インプラントが動かないようにネジ形状を付与して仮固定しているのです。
以前はシリンダータイプと言って寸胴の棒のような製品もありましたが初期固定において不利だったため現在はほとんど流通していません。シリンダータイプは穴に押し込むように埋入できるので操作上は簡単でした。ネジタイプはスクリュータイプと呼ばれ、回転させながら骨に埋め込みます。
上記は鏡面加工部がない全体を骨の中に埋め込むタイプです。主に審美的要求が高い前歯部に用いられます。
骨の中に全体を埋めるタイプをボーンレベルインプラントと言います。
どうして色々なタイプがあるの
HAタイプ、エッチングタイプ、鏡面加工の有無など様々なタイプが用意されているインプラントですが、一般の方にしてみれば不思議なようです。患者さんに「〇〇タイプ」を使用しますと説明する際に、インプラントはすべて同じと思われている͡ことも多々ありますので簡単にご説明いたします。
《HAタイプ》
HAタイプはコーティングされたハイドロキシアパタイトが新生骨の形成において優位性があるというのが当時のうたい文句でした。学術的には確かにそうですので間違いではありません。ただし、HAタイプの弱点としてインプラント周囲炎になるとエッチングタイプに比較して進行が速いと言われています。そのため、上記のイラストのようにHAコーディングの上部に鏡面加工を施して歯肉で覆ってインプラント周囲炎が歯槽骨に及ばない工夫がされています。
《エッチング》
チタン表面を粗造にして骨との結合力が増します。粗造になった分だけインプラント体の表面積が増すので骨との接触面も増すのでさらに強固になります。
鏡面部分に歯肉が接触してシーリングします。
ギュッとしまった健康な歯肉であれば口腔内の汚れが入り込むことを防止できます。
《ボーンレベルインプラント》
インプラントの上面を骨面に合わせて埋入するインプラントです。鏡面部分がないので審美領域の前歯部に使用します。鏡面部分がないためインプラント周囲炎の予防には、プラットフォームスイッチングというインプラント上面とアバットメントのギャップ部分を歯肉で覆う方法で対応します。
まとめ
1952年に発見されたオッセオインテグレーション(骨結合)という現象がデンタルインプラントという新たな治療法につながりました。インプラントが不安定な時期は埋入されてから骨結合が得られる1ケ月後位になります。その間を安定させるためにネジ形状となり、骨結合を速める、結合力を高める工夫がされて現在にいたります。