歯を失うと認知症のリスクが最大1.9倍になるという報告があります。
厚労省の委託を受けて日本福祉大学の近藤克則教授を主任研究者として行われた疫学調査結果です。
《調査方法》
愛知県内にお住いの65歳以上の健常者を対象に調査を行い、4年間にわたり認知症の認定を受けたか否かについて追跡をしています。
その結果、
・歯がほとんどなく義歯を使用していない人
・あまり噛めない人
・かかりつけ歯科医院のない人
は、認知症発症のリスクが高くなることがわかりました。
前述の認知症リスクが最大1.9倍という報告は、
歯がほとんど無いのに義歯(入れ歯)を使用していない人は、20本以上の歯が残っている人に比較しての数値です。したがって、歯を失った=認知症のリスクが高くなるわけではありません。歯を失っても入れ歯やブリッジ、インプラントで噛めるように補うことで認知症になるリスクは軽減します。
噛めないと認知症リスクが高くなるわけ
噛む事で大量の血液が脳に送り込まれます。
認知症専門医が書いた本には、ひと噛みで3.5mlの血液が脳に供給されるとありました。噛む力によって発生するポンピング効果(ポンプ)によって歯根膜に蓄えられている血液が送り込まれるからです。3.5mlとはお弁当についてくる魚の形をした調味料の量と同じくらいと書かれています。
血液が送り込まれる刺激によって脳が活性化し脳の老化が防止できる、そのため、認知症になりにくい記されています。
ちなみに、研究報告書には歯がなくても義歯(入れ歯)を使用している人は認知所のリスクが軽減するとあります。歯が抜けて歯根膜が無くなっても噛む刺激によって歯槽骨に蓄えられている血液や歯肉の血液が脳に供給されると考えられます。
その他の理由として、歯周病とそうでないマウスの認知症リスクを調べた研究報告によると、アルツハイマー型認知症の原因であるアミロイドβというタンパク質が歯周病のマウスにはそうでないマウスに比較して1.4倍多いという報告です。
歯周病のマウスの脳内では、歯周病原因細菌から出ている毒素や細菌を攻撃するために出てくるサイトカインが増殖し、アミロイドβが作られる量が増えたと考えられています。
よく噛めるようにすることが認知症予防につながる
また、冒頭の調査報告によると、
・なんでも噛める人に対してあまり噛めない人のリスクは1.5倍
・かかりつけ歯科医院のある人に対するない人のリスクは1.4倍
とあります。
歯が抜けた時の治療には入れ歯、ブリッジ、インプラントがあります。どの治療を受けるにしても、しっかりと噛めるようにすることが重要です。いずれの治療も失った機能、咀嚼機能の回復が目的です。あわない入れ歯で我慢したり、虫歯や歯周病を放置することなく、信頼できる主治医をみつけることが認知症予防にはとって大切です。
医療現場では噛めないことによる全身疾患への影響について体感的にわかっていましたが、医学的根拠が明かになると効果的な予防方法が確立されるようになります。
医科歯科連携という言葉は医科と歯科が互いに連携して患者さんの健康状態を保つ、向上させるということです。超高齢化社会に突入し、人生100年時代と言われる日本です。口腔ケアで健康長寿社会を目指したいものです。